・建築工事で用いられるアンカーの解説
・どのような場所に何のために使用されるのか
・あと施工アンカーの耐力の比較や種類
アンカーとは?
アンカーボルトという言葉なら聞いた事があるという人は多いと思います。
アンカーとは、部材と部材を繋ぎ合わせる役割を持っています。
建築で良く用いられるのはコンクリートと他の部材を緊結するのに使用されるケースが多いです。アンカーボルトで言うと、木造建築の場合はコンクリート基礎と土台をアンカーボルトで繋ぎ合わせ、建物に掛かる力を基礎に伝え、構造的に建物全体が成り立つように用いられるパーツとしてアンカーが使用されます。
上記画像のようにコンクリート打設時にアンカーを埋込んで一体化させ、土台をボルトで締め付けて固定します。
他に「あと施工アンカー」という物もあり、コンクリート打設前にアンカーを設置するのではなく、コンクリートの打設後(硬化後)に設置するアンカーもあります。後述で詳しく解説していきます。
アンカーが使用される場所
アンカーは様々な種類があり、使用される場所も多くあります。まず最初によく使用される場所の一覧を例として挙げます。
建築物 | 使用場所 | 用途 | アンカーの種類 |
---|---|---|---|
木造 | 土台 | 基礎と土台の接合 | 先付アンカー |
鉄骨造 | 柱 | 基礎と柱の接合 | 先付アンカー |
鉄骨造 | 壁 | ALCパネル・押出成形セメント板と母材の接合 ALCパネル・押出成形セメント板と壁付け器具の接合 | 先付アンカー・あと施工アンカー (先付アンカーは工場出荷時についてるもの) |
鉄骨造・RC造 | 窓・ドア | CON開口部(サッシ・ドア等)と建具製品との接合 | あと施工アンカー |
共通 | 土間・犬走りなど | 基礎と外構CONの接合等 | あと施工アンカー (差筋アンカー等) |
共通 | 柵や化粧柱等 | 床CONと金物の接合 | あと施工アンカー (グリップアンカーやケミカルアンカー等) |
共通(木造を除く) | 天井 | スラブCONと天井下地の吊元や設備・電気器具の接合 | 先付アンカーorあと施工アンカー |
共通 | 壁 | 石膏ボードと壁付けの器具や棚など | あと施工アンカー (ボードアンカー等) |
共通 | 足場 | 壁繋ぎ | あと施工アンカー |
先付アンカー
先付アンカーと記載しているものは特に強度が重要な場所に使用されます。先述した通り、建物の土台や、鉄骨柱などアンカーの強度が重要で、構造用アンカーや建方用アンカーなどとして使われる物があります。新築工事の場合は必ずコンクリート打設前にアンカーを仕込んでおく必要があるものが「先付けアンカー」です。※表のALCは除く
また先付アンカーとして記載した中の、天井下地の吊元用アンカーは「天井インサート」として通常は先に施工します。CON打設前に施工することからインサートという名称ですが、目的はアンカーと同じで天井吊ボルト等を受けるための物です。これは作業の効率が格段に良い為、先に施工します。インサートが足りなかったり、後から追加が必要になった場合に「あと施工アンカー」として打ちます。
あと施工アンカー
あと施工アンカーと記載したものは、「窓やドア等の建具」や「器具固定」など、建材の固定や設備・電気器具の吊り下げ・固定に多く使用されます。種類や耐力に様々な種類があります。
差筋アンカー
「先付アンカー」と「あと施工アンカー」の違いは施工のタイミングです。
ここで説明する差筋アンカーは「あと施工アンカー」に分類される製品です。
差筋アンカーはコンクリートとコンクリートを繋ぐために用いられる製品です。
鉄筋の「差筋」をやむを得なく施工できない場合の打継ぎに使用します。新築ではあまり使用する事が無く、改修工事などで用いられることが多いです。
あと施工アンカー
あと施工アンカーには様々な種類があります。耐震補強では必須と言って良いほど施工で用いられ、日本建築あと施工アンカー協会(JCAA)で施工士や技術管理士などの資格試験があるほど広く用いられています。
ここでは代表的なアンカーの種類と耐力を解説していきます。
あと施工アンカーの種類
大きく種類を分けると3つに分類されます
- 金属拡張アンカー
- 接着剤アンカー
- その他
現場では上記3つの種類名より、メーカーの製品名が馴染みのある用語となっています。
金属拡張アンカー
現場では「グリップアンカー」や「オールアンカー」などがメジャーです。種類名で呼ばれる通り、使用方法は穿孔穴にアンカーを入れてアンカーを拡張(径を広げる)する事により耐力が出ます。
他にもいろいろな製品があり、上記2種類はサンコーテクノ㈱様の製品名です。HPに詳細の施工方法など記載されており、使用方法が解りやすく紹介されています。
接着剤アンカー
現場では「ケミカルアンカー」などがメジャーです。
化学製品を用いた「有機系」の物と「無機系」の物があります。
使用方法は穿孔穴にカプセルやガンで接着剤を注入し、アンカーボルトを挿入して使用します。
その他
ボードアンカーやALCアンカーなどが該当します。
「金属拡張アンカー」や「接着剤アンカー」の使用する場所は、コンクリートや石などの母材が堅固な物です。
その他に該当する物は、比較的母材が固いものではない場所に使用します。
石膏ボードに少し重たいものを掛けたい場合や、ALCに設備器具や電気器具などの取付等、負荷が軽めの物に使用します。
あと施工アンカーの耐力比較
先に紹介したグリップアンカーやオールアンカーとケミカルアンカーはどっちが強いのか?引張荷重の強さの比較を紹介します。
比較の対象はM10のボルトを使用した場合を基準にしています。
必要な穿孔径・穿孔長さは製品既定の数値とし、それぞれ違います。またコンクリート強度は共通でFc=21N/m㎡としています。
アンカー種類 | ボルト径 | 穿孔径 | 穿孔長 (アンカー埋込み長) | 引張荷重(長期) | 引張荷重(短期) |
---|---|---|---|---|---|
オールアンカー | M10 | 10.5㎜ | 40㎜ | 2.23kN | 4.46kN |
グリップアンカー | M10 | 14.5㎜ | 40㎜ | 2.40kN | 4.81kN |
ケミカルアンカー | M10 | 12㎜ | 90㎜ | 12.0kN | 18.0kN |
表から考察すると、長期の数値でみると約5倍ケミカルアンカーの方が強い結果となります。
※製品により強度の違いがあります
引用元
アンカーの強度については下記URLを基に比較をしました。穿孔長や径により耐力が変わりますので、詳細を知りたい方はURL内に解りやすくまとめられています。
ケミカルアンカーについてはURLの「ARケミカルセッター HPアンカー」を比較対象としています。
(社)日本建築学会の各種合成構造設計指針(金属拡張アンカーについて)
㈱吉川商工
試験
あと施工アンカーは改修工事で施工する場合、母材に必要な耐力があるか分かりません。(母材が石や風化の見られるコンクリートの場合等がある)
あと施工アンカーが必要な強度を有しているかを確認する方法として「アンカー引張強度試験」という物があります。
所定の耐力を機械に設定し、写真のようにナットを回して張力をかけます。設定した数値まで行くと音が鳴ります。
アンカーの耐力が重要な所には、このように試験を行います。
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